雪山 - 2

ライチとキーコがいきなり上級者コースに向かったのを見て、ポリスとオツキも同じリフトに乗った。
どれだけライチをいじることに全力なのだろうと思ったが誰も止めない。ホストのマキナは黒薔薇寮の兄妹と話し合いをしているためストッパーはどこにもいない。
「わー、無謀」
「魔法使っちゃ駄目って言われたのに大丈夫かな」
中等部女子組はそれを眺めながら雪で遊んでいる。
ゲレンデには彼らしかいない。一般に開放する時期ではないと車中で説明を受けていた。
「あー、でもキーコは大丈夫な気がする」
かまくらを作りながらキーが呟いた。全員初心者、魔法禁止、それでもキーコならなんとかなりそうだと思わせるのは彼女のカリスマあたりのせいだろう。カヤノは頷いたあとくすくすと笑った。
寒いものの今日はいい天気だ。雪はさらさらとしていて心地よい。固めるのに少し力が必要だったがそれなりのかまくらが出来た。
空気の冷たさにも慣れてきた二人がもうそろそろ滑ろうかと立ち上がったところで、何かが飛んできた。かまくらにぶち当たったせいで雪が宙を舞う。
「大丈夫かオツキー」
かまくらに飛び込んだ何かに対して声をかけたのはポリスだ。
「え、大丈夫ですかオツキ先輩」
「オツキくん生きてるー?」
「ぎりぎり」
なら大丈夫だろうと放っておかれた。カヤノはせめて掘り出してあげたらいいんじゃないかと提案したが、自力で頑張ってもらおうと言う先輩二人に押されてリフトへ向かう。
「薄情者ー……さむっ」
くしゅんと小さくくしゃみをしたオツキは、しばらく雪の中で過ごすことになった。

キーコとライチはほぼ同時にコースを滑り終えた。直滑降で異様なスピードを出したオツキとどうにか止めようとするポリスに邪魔もされたがだいたい同着で間違いないだろう。
「よし、もう一回やるか!」
キーコは笑顔で言うが、ライチは首を横に振る。
「寒い、戻る」
「それはない」
どれだけ寒がりなんだ。キーコはそう言うだけで無理矢理連れて行こうとはしない。
この面倒くさがりで寒がりなのが雪山行きに参加しただけで奇跡だ。それ以上を求めるのは酷な気がする。しかし一人というのも味気ないなあと考えて、ライチと一緒に戻ることにした。
「滑らないのか」
「あとでキーたちと中級者コースでも滑ることにするさ」
それまではコテージの温泉に入っていようと言いつつキーコはコテージの扉を開ける。
中では黒薔薇寮の兄妹とマキナが紅茶を飲んでいた。
「あら、おかえりなさい」
そう言ったのはマキナだけで、兄妹はキーコたちを見もしない。
「……今からでもいい、帰るぞ」
「嫌です、明日から会う予定ですもの。それにお姉様に言われるならともかく、お兄様の言いなりになるつもりはありません」
「二人っきりってわけじゃないんだし好きにさせてあげたら?」
まだ決着がついていないようだ。妹の方は恋人を含んだ友人たちとゲレンデでお泊まりデートをしたいらしいのだが兄は反対している。
ここまで来たのだから諦めればいいのに。言いたい気持ちを抑えてキーコは紅茶を飲む。
「お前も先輩カップルと一緒で気まずくないのか!」
兄は明らかにキーコとライチを見ていた。恋愛関連に興味がある妹も二人を見た。
マキナが弁解するだろうと思ったのに、彼女も信じられないものを見るような目でこちらを見てくる。
「違う、付き合っていない。勘弁してくれ」
目つきは変わらない。それになんだか肩が温かい。見れば疲れたライチがキーコの肩に寄りかかって寝ている。
「……爛れた付き合いでなければ、許す」
「お兄様!」
「貸すコテージは明日まで掃除させるから、二人共今日はゲストルームに泊まっていって」
三人は階段を上がっていく。平和的に解決したのはいいが、キーコは何か大切なものを失ったような気がした。
「……タカ…肉…だぞ……」
「起きろライチ、起きろ!!」
12.11.27. 初出
13.06.10. up

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