雪山 - 1

廊下にに置かれた長椅子で生徒が数人話し合っている。まだ幼い中等部生の他、色んな意味で有名な高等部生が二人いるせいでその集団は他の生徒の視線を集めていた。
「やっぱり冬なら雪山だろうね」
「寒いのは嫌いだ…」
ライチの腹にキーコの肘が入る。先程から人の意見を否定してばかりのこの男をどうしてやろうかとキーコは考えて、放っておくしかないのだろうなとすぐに気づいた。
上級生が行うコントを無視して下級生の話し合いは続く。突然やってきた短期休暇、どうせなら今更ながら親睦でも深めようと旅行に行こうと決まったのはついさっきのこと。
三日後にはやってくるそれの行き先はまだ決まらない。無謀な案を出す者ばかりだからだ。
「だからやっぱさ、ライチ先輩の家に突撃訪問しようって」
「それでもいい」
「駄目ですよオツキ先輩、ポリス先輩も乗っちゃ駄目です。非現実的じゃないですか」
オツキの案に乗りかけるポリスをカヤノが止める。自寮の後輩には多少の差あれど弱いのはどこも同じようでポリスは「やっぱなし」とオツキに言った。
「私もキーコ先輩に賛成です」
「じゃあ私も雪山で」
「流石はキー!どうだこれで賛同者は2人だぞライチ」
キーとカヤノが手を上げたのを指し、キーコは腰に手を当てて威張る。
さてどうしよう。後輩の男共はカヤノのお陰で一瞬は大人しくなったがまたライチの家に行くと言っている。それだけは避けたい。キーコの考えに乗れば多数決で雪山行きが決定するだろう。しかし寒いのは苦手だ。
「……予約は取れるのか?」
なんとか出した言葉は弱点を突けたらしい。三日前にこの人数を泊まる場所を見つけるのは難しいだろう。
キーコたちが黙り込んだのを見て、ライチは自分の温泉日帰り案を通せるのではないかと考えた。
つい先日見た本に影響された彼は、温泉の効能とはどれほどのものなのか調べたいのだ。それに温泉は寒くない。既に施設も見つけてあった。
「じゃあやっぱりオレのおんせ」
「あ、マキナせんぱーい!」
ライチの言葉をキーが遮る。大きく手を振るキーにマキナも手を振り返し、近付いてきた。
今日は彼女にとって男装をしなくてもいい温度らしい。ヒールの音がかつんと響く。
「キーちゃんたちに…先輩方?何やってんですか」
「休暇にどこか行こうって話になりまして、案を練ってるんです」
ポリスが返す。ふーんと呟いたあと、当然のようにマキナは長椅子に座ろうとしたが出来なかった。
「マキナ!妹が彼氏とお前の家のコテージで過ごすって言うのはどういうことだ!」
黒薔薇寮のネクタイをつけた男子生徒がマキナの肩を掴む。
「せっかく家族で旅行しようと思ったら断られた兄の気持ちがわかるか?!」
「だってあんたの可愛い妹に手を取られて「マキナお姉様はわたくしの雪山ロマンスを応援してくださいますわよね?」って言われたから断れなくて」
「実の兄のことをはクソ兄貴と呼ぶくせにあの妹…!」
ここで男子生徒は中等部生組の視線を感じてマキナの肩から手を離した。
「……ここじゃあれだから後で手紙を飛ばす。とにかく妹にコテージ貸すなよ!」
「じゃあまた」
早足で去る男子生徒にひらひらと手を振って、マキナは長椅子に腰掛けた。
カヤノが「うちの先輩ですよね?」と問う。自寮贔屓の激しい彼女にあまり他寮の友人は少ない。親しげなことが気になったが、あまり踏み込むのも悪い気がしてそれ以上は聞けなかった。
代わりに、とんでもなく笑顔なキーコがマキナの前に動く。
「ねえマキナちゃん、ゲレンデ近くの別荘ってあったりするのかな?」
「別荘?ありますけど」
一家に一つは当然あるでしょうといった顔。ローワークラスだと言っていたのは嘘だったのかとライチは落ち込んだが、他の面子はタダで宿が見つかったことを喜んでいた。
12.11.25. 初出
13.06.10. up

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