昔々あるところに人間と精霊がいました。
精霊は人の姿をしていたので、人間は精霊のことをずっと人間だと思っていました。
一緒に過ごす内に精霊を好きになった人間は、精霊と結婚しようと考えて思いを打ち明けました。
精霊も人間のことが好きなのですが、はいと答えることは出来ません。
精霊はもうすぐ人の姿を捨てて精霊の姿になってしまいます。だから人間と結婚することは出来ないのです。
そのことを知った人間は深く悲しみました。精霊が人のままでいられないのはこの世界の決まりで、どうすることも出来ません。
けれどどうしても精霊と結ばれたい人間は、知り合いの魔法使いたちにどうにか出来ないのかと話を聞きに行くことにしました。
闇色の髪を持つ魔女は、精霊を光の魔法で包めば人の姿にしておけると言いました。
「けれどそれは精霊の命を削ります。決まりに背いたものはそうなってしまうのです」
魔女は人間に言いました。精霊が精霊の姿になることは魔女にとって当然です。だから人間を止める意味も込めてこんな悲しい言葉を口にしたのに、人間は違うことを考えました。
決まりを破れば精霊は今の姿のままでいられるのではないか!と。
次に闇の魔術を得意とする魔法使いに会いに行きました。
魔法使いは闇の力を込めた呪札を使えば精霊は人の姿にしかなれなくなると言いました。
「だけど術者が同じだけの返しを受けることになります。人間には耐えられないでしょう」
死ぬことよりも辛いことがずっと続くのです。そうなれば精霊と結婚するどころではなくなるでしょう。
だから人間は考えました。自分が人間で無くなれば、それに耐えられるのではないか?と。
次に氷の魔術が得意な魔法使いに会いに行きました。
魔法使いは永遠に溶けない氷の中に精霊を封じ込めてしまえばいいと笑って言いました。
「話せなくなるくらいで躊躇うのなら諦めてしまえ。それだけの存在だったんだよ」
人間が精霊を氷の中に閉じこめるのが嫌なのは話せなくなるからではなく、精霊が冷たい思いをするからです。
人間は精霊に笑っていてほしいのです。そのためなら何でも出来ます。
次に会いに行ったのは風をまとう魔女です。彼女は精霊と仲が良いので、必死に人間のことを止めました。
ですがどれだけ言っても人間は諦めようとしません。魔女はどうやっても止められないのだとわかると、一冊の本を人間に渡しました。
「きっとあなたの知らない魔法がここにはあります。実行するしないはあなたの自由です」
本には封印がかけてありました。人間が本を見たいと強く望んだとき、初めてページを捲ることができます。
本を抱えたまま人間はある魔女の家に行きました。魔女は人間が精霊と一緒にいたいと知ると、溜め息をつきました。
「聖霊の姿にして飼うための魔法を知るならともかく、人として一緒にいたいなんて」
魔女の家にはたくさんの妖精や精霊がいました。力の弱い魔女にとってそれらは電池のようなものです。だから魔女は精霊を大切に思う人間が、人間には魔女のことが理解出来ませんでした。
ただ、人間は一応それらのやり方を教わりました。
たくさんの魔法使いたちの話を聞いて、禁じられた魔術を使って、精霊は人間の体を手に入れました。
精霊にとっても、精霊が人の姿を失うことは大切な決まりです。だから自分のことに必死になる人間を何度も止めました。でも最後には受け入れることにしました。
人間とずっと一緒にいたいと精霊も思うようになったからです。
しばらくの間は素敵な生活を送りました。
終わりはいきなりやってきました。
無茶なことばかりを繰り返した人間は、悪魔にされてしまいました。
世界の決まりを破った精霊は、人間にされてしまいました。
ただの人間には耐えられないたくさんの力のせいで、精霊は死んでしまいました。
悪魔は精霊の魂がそのまま新しく人間になるよう呪いをかけました。
冷たい体を抱えて泣く悪魔の前に、魔法使いたちが現れました。精霊について人間に話した彼らでした。
悪魔は彼らによって封じ込められました。
魂の中に悪魔を封じたせいで、魔法使いたちの魂が生まれ変わることはもう出来ません。
それが彼らにとっての責任の取り方でした。
だけど悪魔は、彼らも生まれ変わるように呪いをかけました。
それは弱いもので今すぐ彼らを死に至らしめることは出来ません。遠い未来まで待たなくてはいけないのです。
でも、必ず死はやってきます。
魔法使いたちが死んで生まれ変わったそのとき、魂の中に封じ込められたら悪魔は解放されます。
5人の内で一番居心地のよい魔女の中で、悪魔はいつかのときがやってくるのを待つことにしました。