脳内で盛り上がりすぎた。
女学生探偵:キー
普通の学生であったがとある事件でキーコと知り合い、世間から探偵扱いされるようになる。
生活能力のないキーコの家に通い家事をする日々。
小説家:キーコ
キーを気に入ってそばに置いておきたがる変人小説家。ジャンルを問わず何でも書く。
ライチとは長い付き合いで、彼女の過去を知るのは彼くらい。
古書店の跡取り息子:ライチ
神田のそれなりに大きな古書店の息子。いつも風呂敷に本を入れて持ち歩く。
キーコの被害者(?)であるキーには優しいが、キーコには辛辣。
同級生:カヤノ
キーと同じクラスの少女。
今は交友のない父方実家、通称「異国人形館」の周辺で起きた殺人事件の解決をキーに依頼する。
使用人A:マキナ
異国人形館の使用人その一。
孤児院出身。異国人形館の人形のいくつかは彼女が作ったもの。
使用人B:ポリス
異国人形館の使用人その二。
同じく孤児院出身。力仕事は彼担当。あまり外に出たがらない。
Q:これあの面子でやる必要あるの?
A:貧乏性な私を許してください。
(はじまり)
「どうか私の話を聞いてくださいませんか?」
放課後、カヤノさんが私の肩を軽く叩いた。あまり交流のない人だったから私は驚いたものの、これは良い機会だと思った。
あまりカヤノさんはクラスの子と話さない。休み時間は本に向かっているような大人しい人だ。きっと外の人が想像する女学校の生徒とは彼女のような人だろう。
カヤノさんに私は憧れを抱いていた。だからこの後は先生の家に行って夕食を作るつもりだったけどやめることにした。大丈夫だ、一昨日に三日は保つ量のおかずを作ったのだから。
「何かありましたか?」
私が椅子に座るとカヤノさんは前の席に座った。腰まではあるであろう長く美しい髪が夕日に当たって輝いていた。
「……これからする話は、どうかクラスメイトの方には話さないでください。勝手なお願いですが、あまり知られたくないのです。
私が××県の方へ引っ越しをする話をキリコさんはご存知ですね。先日、担任の先生が話してださいましたから。
……姉が、身体の弱い人で。空気のいい村で静養しようということになったのです。その村にある祖父の家に住むつもりで話を進めておりました。
祖父との交友はここ十数年ありません、ですが寛大な方ですのできっと住まわせてくれるだろうと父は言いました。事実、祖父は受け入れてくれたのです。
ですがここ数日、手紙のやり取りが途絶えてしまいました。いくら送っても返事は無く、村の方に聞いても知らないの一点張り。
どうしようと悩んでいたとき、祖父の家の周りで死体が発見されました。それを祖父の人形の祟りだと村人は呼びました」
涙を浮かべたカヤノさんに両の手を握られた。
「どうか、この事件を解決してください!」
クラスメイトの泣いた顔を見て、それでも首を横に振れる人はいるのだろうか?私は出来なかった。
こうして、新人女学生探偵の私は××県へ向かうこととなった。
(いきなり)
「どうして先生とライチさんがいらっしゃるのでしょう?」
藍色のパンツに白のシャツ、肩に付かないくらいの髪を後ろでまとめているこの人は有名な作家である。恋愛ホラーミステリーとジャンル問わずな人だが生活能力に欠けている。
放っておいたら食事をとらずに三日四日は平気で過ごす。私が通うまではライチさんの差し入れで生きてきたらしい。
私と先生はある事件がきっかけで出会った。その事件を題材にした小説のせいで私は女学生探偵だなんて呼ばれることになったのだが、長くなるので今は置いておく。
「こんなにも可愛いキーが一人で旅行だなんて危ないじゃないか!」
「……止めたのだが無理だった。すまない」
先生の隣で溜め息をついている男性は神田の古書店の跡取り息子のライチさんだ。
先生とは中学校からの付き合いで、先ほど言ったように出会ったときから食事を提供してきたらしい。
今日のように萌葱色の和服を着ていることが多く、先生よりも小説家らしい雰囲気を漂わせている人だ。
「聞いてくれキー、このもやしは付いていくなプライバシーがどうのと横文字を使ってまで私に意見したくせに、自分はちゃっかり付いてきているんだ!」
「何かあったら親御さんに申し訳ないだろう」
「私がいるのに何がキーに起きるんだ?」
「原因はお前だろうな」
先生はライチさんに言い返そうとしていたけど、ライチさんが買った車内販売の弁当を差し出すと大人しく食事を始めてくれた。
先生が気持ち良く食事をしている間に、私は先生たちが来てくれて嬉しいから気にしないでくれとライチさんに話した。
最初は先生を誘って行こうと思っていた。だけど先生の担当編集であるツキさんに偶然出会って、「締切まで三日なのにプロットすら上がってない」と聞いたものだから一人で行こうと決めたのだ。
「あ、小説はどうなったのですか?」
「終わらせたよ。キーとの旅行のためだからね!」
なんだかツキさんに申し訳ない気がした。
これは旅行じゃないとライチさんが指摘したけど、先生ははっはっはと笑い飛ばすだけだった。
(ごたいめん)
異国人形館にはたった二人の使用人しかいなかった。
彼らは最初、いきなりの訪問者に驚いていたけれどカヤノさんと知り合いであることを伝えると歓迎してくれた。
「私はマキナと申します。こちらはポリスです。この館で働いております」
「僕たち二人で十分なもてなしが出来るかわかりませんが、何かありましたら遠慮なく申し付けて下さい」
私と同じくらいの年をしているのにしっかりとしている人たちだ。
マキナさんが出してくれたお茶を飲みながら私は客間を見回した。あちこちにここを異国人形館たらしめている人形たちが並んでいる。
私が人形を見ているのに気づいたポリスさんが、人形について話してくれた。
「旦那様の趣味です。多くは海外から取り寄せたものですが、マキナが作ったものもいくつかあります」
「こういった人形は陶器で出来ているものだとばかり思っていたが、違うみたいだね?」
「おいキリコ、歩き回るな大人しくしてろ」
確かに人形は陶器のようには見えない。かといって木のような温かみを感じるものでもない。
既に自宅気分で客間を散策している先生を止めるのはライチさんの仕事だ。決して私の仕事ではない。よってライチさん私の方を見ないでくださいお願いします。
「そうですね、特別な素材で作られたものです」
「へえ、気になるなあ。マキナちゃんに話を聞くことは出来るかい?」
「マキナは皆さんの部屋の準備をしております。その後で良ければ」
先生の口角が上がった。にんまりと笑い、ポリスさんの目を見る。
「じゃあまずは君に一つ質問だ。異国人形館殺人事件って、どういうものだい?」
「村人たちが言っているくだらない噂話です。有名な作家先生の気になさるようなことではありません」
ポリスさんはまっすぐに先生を見つめ返していた。
私はなぜか、この事件を解決するのは大変だろうと考えるのだった。
(にんぎょう)
「本当になんてことのない話です。この屋敷の裏に広がる森の奥にたぶん山菜でも取りに行ったのでしょう、村人が何人か遭難して亡くなったのです。その近くにはもう使われていないのですが当家の小屋がありまして、置きっぱなしになっていた人形の部品を抱えて死んだ者がいたのです。きっと飢えから狂ってしまったのでしょうね」
「それで異国人形館殺人事件だなんて名前が?」
「ええ。何しろ夏の話ですから、腐ってしまった死体たちの中にある人形は目をひいたことでしょう」
マキナさんはそれだけ話すと、食事の後片付けがあるからと言って食堂に戻っていった。
石鹸の匂いの中に、妙な匂いが混ざっているような気がした。
マキナさんを追ってみるべきだろうか。無礼を承知で追いかけようとしたけれど、ポリスさんに声をかけられてしまった。
「お客様、マキナに何か?」
「……いえ、何も」
「そうですか。では僕も失礼します」
ポリスさんは私を見た。いや、私の奥にいる何かを見た。
その目は先生に向けられたものより優しくて、どうしても何を見ているのか知りたくなった。
きっと見てはいけないものだとわかっているのに私は後ろに目をやると、人形がそこいた。
「こらお前、お客様を驚かせてはいけないよ」
ポリスさんは人形をそっと抱えると、マキナさんが消えた方へ歩いて行った。
私は歩けない。どうしてあんなところに人形がいて、違う、人形は「ある」ものなのにどうしてあの人形には「いる」と表現してしまうのか。
わからない。わけのわからないものに対して私は恐怖心を抱く。ああ、今すぐここから立ち去ってしまいたい。怖い。視界が地面が頭がぐらぐらして。
「キー!」
私の手を掴んだのは先生だ。
暖かい。不安も恐怖も全部消し去ってくれるこの手が好きだから、私は先生からきっと一生離れることが出来ない。
(いたみの)
私は見てしまった。見てはいけないものを見てしまった。
「ごめんなさい」
そう私に告げたのはポリスさんだったのか、それともマキナさんだったのか。私にはわからない。
私を見つけ出してくれたのは先生だ。妙な薬を嗅がされたせいで頭がはっきりしない。それに加えて狭い箱に入れられていたものだから体の節々が痛かった。
でも私にはしなければいけないことがある。依頼人のカヤノさんのために、この館の主人のために、そして付いてきてくれた先生とライチさんのために。
「ポリスさん、マキナさん、あなた方の旦那様は既に亡くなってますね?」
「……もう、言い逃れは出来ないでしょうね」
「ならば全て話すのが僕たちに出来る最後のこと。
……僕たちの旦那様は立派な方でした。早くに奥様を亡くされ、お子様方とは上手く接することが出来なかったようですが…僕たちや村人たちには優しい人でした。たぶん、それがいけなかったのです。
旦那様は重い病にかかりました。それを知るのは僕とマキナと村医者の三人だけ。旦那様は今際のときに、自分の死は血族にだけ伝えるようにとおっしゃいました。そのときの僕たちはそれがどういう意味かわかっていませんでしたが、そうなるようにするつもりでした。
ですが旦那様が亡くなった夜、村人たちが館に押し入ってきました。村医者が話したのです。村人たちは館を漁り金目のものを奪おうとしました。それどころか、マキナを、どうにかしようとしたのです。マキナの服が破かれようとしたとき、僕はその男の頭をシャベルで殴りつけました。案外簡単に人は死ぬものだとわかりました。ですから侵入してきた奴らと、門の前で待っていた医者も殺しました」
「あとは死因がわからないよう薬品で村人たちを腐らせました。人形を置いたのは、この屋敷に近寄らせないためです。私たちは血族の誰かがここにいっしゃるまで、旦那様の死を隠すことに決めました。使用人風情が何をと思われるでしょうが、旦那様の遺産を継ぐのはどうか旦那様のことを思ってくれる人であって欲しいと思ったからです」
彼らの長きに渡る演技はこれで終わった。どうか自首して欲しいと思ったけど、二人は夜の森へ消えてしまった。
私が間違って入ってしまった旦那様の部屋には腐らないように処理を施されたあと棺に入れられた館の主の死体と、権利書や財産についてまとめられたもの、そして静養には違う県にある館の方が良いだろうという内容のメモが置いてあった。
だからだろうか、私は二人があまり悪い人には思えなかったし出来れば幸せになって欲しいと思った。
私が気絶している間、ライチさんとマキナさんには何かあったようで先生はひたすらそのことでライチさんをからかっていた。
(たんじょう)
カヤノさん一家は無事に越していった。館の主の葬儀も終わり、異国人形館殺人事件が話題に上がることはなくなった。
私がいつも通り先生の家に向かう途中、踏切で足を止めると通り過ぎた車内に知っている二人の顔が見えたような気がして、なんだか少しだけ嬉しくなった。