(1)
やっぱりキーコ先輩はライチ先輩と一緒に来た。こう表現したら失恋なんだろうけど、異質っぷりが似てるからかお似合いに思える。
キーコ先輩の隣をキープしてる、もといキーコ先輩から手を離してもらえないキー先輩は同じ学年の男子と来たらしい。でも今は料理に夢中だ。もしかしたらキーコ先輩に取られたと思ってるのかも。うん、勝てないよね。キーコ先輩は輝いてる。雰囲気もそうだし、物理的にも目がきらきらしている。同性だけどかっこいい人だ。
オツキ先輩は開始早々に料理をひっつかんで逃げていった。凄まじいお誘いは当日まで続いたらしいから可哀想な気がするけど、それとプディングを皿ごと抱えていったのは別の話だ。あれは酷い。
ポリス先輩はなぜか私を誘った。今はライチ先輩に絡みに行っているので、私は大人しく壁に寄りかかっている。
マキナ先輩はいるにはいるけど近寄りがたい。隣にいる人は私と同じ寮の人で、雪山で会った人でもある。その人とがっちり腕を組んでいた。ポリス先輩が私を誘った理由はたぶんこれだろう。マキナ先輩は取られてしまっていたらしい。
そのお陰で私はここに来られたんだけど、なんだかポリス先輩が可哀想な気がした。
「カヤノちゃん、こんばんは」
「え、こ、こんばんは」
ライチ先輩にちょっかいを出すポリス先輩を見ている間にマキナ先輩が目の前に来ていた。さっきまで隣にいた人の姿はない、先輩一人だ。
「どうしたんですか?」
「何か深刻そうな顔だったから」
あなたに振られた人のことを考えていましたとは言えず、私は曖昧に笑った。それ以上は聞いてこないマキナ先輩は何か感じ取ってくれたらしい。
「あれはただの友達。家同士で交流があるの」
失恋はしてなかったらしいポリス先輩のことを考えると無意識の内に口角が上がった。それを見たマキナ先輩は小さく笑ってたあと、黒薔薇の人のところに戻って行った。
二人のことを見つめるポリス先輩にこのことを教えてあげなければ。
壁から離れた私に向かって、金のモールで装飾されたヒイラギが「青春だなあ」と声をかけた。
(2)
キーコとライチ先輩が周りの雰囲気に負けて踊り始めた。キーコはともかくライチ先輩が活動的なことをすることに驚きを隠せない。
「ライチ、もう少し楽しそうに踊らないか」
「これが俺の精一杯だ」
キーコはあんなこと言うけどいつものライチ先輩と比べると笑顔だ。ライチ先輩に女の子のハートをキャッチされた男子生徒たちに負けてダンスを始めたのも通常時ならありえない。クリスマスには魔物が棲んでいるのかもしれない。
背の高い二人は絵になる。簡単な講習しか受けていないはずなのに、踊る姿は人の目を惹いた。
魅力があるとは彼らのことを言うのだろう。踊っている人も大半が足を止めてキーコとライチ先輩のことを見ていた。
踊り続けているのはカップルぐらいだ。ダンスパーティーのための即席ではなく彼氏彼女の関係だと、お互いしか目に入らないらしい。
その中に知っている髪飾りを見た気がしたけど、すぐに人に隠れて見失ってしまった。
楽しそうにくるくる回るキーコと、当社比3割増しで笑ってるライチ先輩。ダンスが終わった後でも二人でいるのが当然な気がして、キーコの隣に行くのを躊躇った。
カヤノちゃんはポリスくんと話しているし、同じ寮の知り合いもいない。なら何か食べ物でもつまもうと踏み出した途端、大きな音が会場に響いた。
天井からハートマークの紙吹雪とリボンが降ってくる。クラッカーにしては大きすぎるし火薬が多かったのか煙が立ち込めた。
杖を持ってきて良かった。風を操って煙だけを外へ出すと、宙に浮いたままのリボンが文字になっていたのがわかる。
「ライチ先輩とハートとキーコ先輩……あ、相合い傘」
間違いない。これをやらかしたのはオツキくんだ。私が楽しみにしていたプディングを全てかっさらっていったオツキくんに違いない。
ライチ先輩も同じ考えに至ったのだろう。無言で外へ駆け出して行った。ライチ先輩、私のプディングの恨み分もどうかやっちゃって下さい。
「よし、ライチは行っちゃったから次はキーと踊ろうか!」
「キーコ、それはおかしい」
ライチ先輩が去った後、私はさっきと同じようにキーコの隣にいた。少しだけ優越感を抱えるのは本当だけど、さっきの今で踊りましょうはいそうですねとなりはしない。無理、ハードル高すぎる。
「だいたいキーコならライチ先輩以外にも相手が」
「私はキーと踊りたいんだ!」
胸を張って宣言されてしまった。この人は楽しいことを優先してしまう節がある。その時に限り相手の都合をちょっとだけ無視してしまうのだ。
きっと何を言っても聞いちゃくれないので、私はキーコから差し出された手を掴んだ。