色々

(マキナ→ライチ→キーコ)

最悪だ。ああ、最悪だ。叶うはずのない恋なんてものは私には要らないのに、私はあの人を好きになった。
そのあの人は違う人が好きだ。たぶん本人は気づいていないだろうけど私は知っている。
きらきら輝く瞳。私とは比べものにもならない魔力。人を惹きつける雰囲気。
全てが私と違う。私が欲しいものばかりを持っているその人は性格も良くて私にも優しくしてくれる。
だからといって恨まないわけじゃない。正直言うなら憎い。今すぐあの人以外の恋人を作って幸せになって欲しい。

「…ん、どうした?」
「顔が青いな。早く帰れ」

はいはい悪かったですね邪魔して。でもあれですから、あんたらが後からやってきたんですからね。
それなのに追い出されるのは私。可哀想な私。我ながら気持ち悪い。どうやら私は悲劇のヒロインもかわいこぶりっこも出来ないらしい。
無言でノートと筆記用具をまとめる。体調なんざ悪くない。こんなくだらないことを考えているだけなんだ。言ってしまいたい。大声でぶちまけたい。
私はこの人が好きだけどこの人はあの人が好きなんですよ!
人がたくさんいるせいで空気の悪い図書室の中で叫べば、噂は四寮を駆け巡ることだろう。
そしてティーンエイジ特有の恋を異物として扱う空気に呑まれて恋心が消えるもよし、付き合ってしまうもよし。私に痛いところがあるとしたら失恋が確定するのと三日ばかり痛い子扱いされることくらいだ。
さあ叫ぼう。そう考えた私の肩に暖かいブレザーがのせられる。緑の髪をした私の想い人のものだ。

「気をつけて戻れよ」

なんだこれ。こんなのってない。大声を出すために吸い込んだ生温い空気が、肺に落ちるのを感じた。
私はノートもペンも置いたまま図書室の扉に向かう。全力で走る。司書の声と生徒たちの視線を感じたけど無視した。
図書室を出てもしばらく走るのをやめなかった。人気の無い廊下の隅っこでようやく私は立ち止まる。
液体が私の目から流れる。どうやっても止まらない。
私はあの人が好きだ。諦めることなんてたぶん出来ないのに、それでも諦めようとしているのに、あの緑色はなんて残酷な奴なんだ!
私の怒りが間違っているものだとは私が一番知っていた。気持ちを伝えていないのにわかるはずがないのに。

好きなだけ泣いた後部屋に戻ると、机の上には私のノートと筆記用具と「大丈夫か?」というあの人のメモがあったものだから、私はまた泣いてしまった。



(ポリスとマキナ)
※下品

例えば、俺の隣で残虐極まりないスナッフムービーを笑顔で見る先輩を押し倒して突っ込んで喘がせて体液を放出したとしよう。その場合、確実に俺は退学処分を受ける。先輩が泣き寝入りだとか、強姦から始まる恋だとか、そういったことをするとは思えない。
だからやらない。俺だって一応人間だ。理性だってちゃんとある。テレビの中で首から血を流す女に感じた憐れみから発生した性的興奮と思春期特有の感情がまぜこぜになった何かを人にぶつけるつもりはない。
興味はある。だけどそういうのは好きな人とやるものだろう。俺はこの人のことを好きだとは思っていない。こんな欲求を持ったのは、紅茶とインクの匂いに脳が侵されたからであって決して俺のせいではない。

「どうしたの?」

小さな手が俺の手に重なる。自分とか違う温度が移る。
この人は馬鹿じゃないのか。密室で二人っきりで男に触れるとか何されても文句は言えないと思う。

「先輩」
「あ、終わっちゃったね」

熱が離れる。膝をついてデッキを操作しているから、細い足首がよく見えた。
これはちょっと良くない。ひっ掴んで寄せてしまいたい。今日は性欲デーか何かか。

「もう遅いけど戻る?泊まってく?」
「帰ります絶対に帰ります」

ここで帰らなかったら何するかわからない。最後までやらなかっとしても15歳以下お断りのことくらいはするかもしれない。
この人は女で、俺は男だから、やろうと思えば簡単だ。でも出来ない。好きじゃないんだ。慕ってはいるけどそういうことじゃない。先輩として好きなだけで、それ以上じゃない。

「そうだねー、他寮の高等部の女の部屋にいるなんて噂がたったら彼女出来ないもんね」
「別にまだ興味ないんで」
「でも中等部では人気あるって聞いたよ」

情報源はオツキだ。自分は色恋沙汰から逃げてるくせに他人については興味津々でスピーカーになる。
最近はずっとライチ先輩周りのことしか気にしていなかったから油断した。気の早い女子がクリスマスパーティーに誘ってきたとか漏らすんじゃなかった。
DVDをケースにしまい終えた先輩は俺の前に座る。さっき以上に香りがわかった。何で女は揃いも揃っていい匂いがするんだ。

「こうやって集まるのも、もう終わりかなあ」

寂しいねと言うくせに柔らかく笑うこの人の思考回路がわからない。寂しいならずっと続ければいい。仲のいい先輩と後輩でいればいい。
それだけのことなのに、どうしてこんなに俺は辛いんだ。



(カヤノとキー)

午後のカフェテリアには私を含めて数人しかいない。ここは寮の談話室や図書館と比べたら少しだけ寒いから、自習する人たちはあんまり寄らない。
話したい女の子たちとか他寮生同士のカップルとかにはいい場所だ。だから真面目に勉強するには向かない、はずなんだけど目の前のキー先輩は必死に魔法史の追加課題をやっている。
先輩の使い魔の鳩が五分ごとに頭をつつく。時計の代わりらしい。
キー先輩の遅刻魔っぷりはそれなりに知っていた。とんでもない遅刻魔なのに成績のいい生徒が白朝顔寮の中等部にいるって噂は入学してからずっと流れている。
私は白朝寮生のことを勝手に真面目だと思ってた。同学年の白朝顔生はみんな成績いいし遅刻しないし。
だけどキー先輩は違った。面白いくらい遅刻する。何がどうしてそうなったと聞きたいくらい遅刻する。
その結果、キー先輩はちょくちょく追加課題をやらなくちゃいけないことになる。

「あと40分で16時ですよ」
「もうちょっとで終わる!」

誤字脱字チェックをしたらそのまま教授の部屋に提出しないといけない感じの時間だ。
魔法史の教授の部屋はカフェテリアを出てすぐ。たぶん歩いて1分もかからない。でもキー先輩の遅刻はこんなときにも発動するらしいから、私も一緒についていこうと決めていた。
新しく植える植物を選んでいたら急に目の前にキー先輩が座っていたのだ。私は驚いた結果、候補のいくつかを忘れてしまった。だからちょっとくらい楽しませてもらっても罰は当たらない。
ペンが滑るように動いていく。綺麗な字が紙を埋めていくのは見ていて面白い。

「あと何分?」
「まだ30分くらいあります」
「じゃあちょっと付け足そうかな」

一定のペースで単語が重なっていく。控えめな音が心地よくて、きっとここが寒くなかったら寝てしまっただろう。

16時になる10分前、キー先輩のレポートは完成した。スペルミスが無いかの確認も終わった。あとは出すだけだ。
荷物は適当にまとめておいて、カフェテリアを出た。
廊下はもっと寒いけどクリスマスの飾りがあるからか明るく感じる。

「クリスマスパーティーって中等部も出られるんですか?」
「うん、夜のダンスパーティーは男女ペアじゃないと駄目なんだけどね」
「キー先輩はダンスパーティーも出ます?」
「あー、どうだろう。キーコたちに誘われてはいるんだけど……」

キーコ先輩はライチ先輩と一緒に行くのかとか、マキナ先輩はポリス先輩と行くのかとか、そんな話で盛り上がって……え、おかしい。なんで教授の部屋に着かないの。
なぜか違う階にいる。いつ階段下がったっけ。それよりも今何時?
時計を見れば16時はすぐだ。私はキー先輩の手からレポートを取って教授の部屋に走った。

ぎりぎりで提出出来た。心臓が今にも破裂しそう。後ろの方でキー先輩の声が聞こえるけど何も返せない。
なんか、すごく疲れた。
12.12.14. 初出
13.06.10. up

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