(Breakfast)
ライチ先輩が姿を見せると、私を含む一部の女子が色めき立つ。
今日も綺麗だなぁ、ライチさん。
「肉だ」
ポツリと呟いたライチさんは、ふわりと優しい笑みを浮かべた。
え、なにあれ。なにあれ。窓から差し込む光とマッチして、もう、え、天使?一枚の絵として売れる。確実に。
私の周りにいた同じグループ(赤百合ライチさんに話しかけ隊)の友達陣は蕩けた顔してるし、何なら普段ライチさんを敬遠してる高等部3年の男子の先輩も少し顔が赤い。しかめっ面してるけど。
「そんなに、お肉食べたかったの、ライチさん……!」
「あぁ、私のお肉をあげたい!」
「このテーブルのお肉全部あげたくなるじゃないですかっ」
朝から天使の笑みを浮かべたライチさんを見れた。今日も生きて行ける。先輩だしなかなか話しかける勇気が持てないことが悔やまれる。せめて、せめて同学年だったら!
「また使い魔の鷹のことですか、ライチさん?」
ほぼ衆人環視レベルの中、ライチさんに話しかけたのは、あれは、ネクタイからしてブルー・ブロッサム?
青桜でライチさんの知り合い(強調)といえばキーコさんが有名だけれど、誰だろう?
「オツキか、おはよう。その話し方気持ち悪いな」
「うるさいです。頼まれてたの育ちましたよ」
「本当か?ありがとう。いつも助かる。肉以外なら好きなものを持って行っても構わない」
「いやアンタから飯奪うとか殺人未遂になりかねねーからな?」
確かに。ライチさんは華奢だし、食べなかったら倒れそうだ……。
とりあえず、彼はライチさんと仲良しの後輩らしい。中等部辺りかも。いいなぁ…ライチさんとお話しできて。
「つーか鷹より俺のが下デスカ、ライチさん」
「まぁ、お前はただの後輩で、タカは友達だからな」
「あぁ、はいそうですか……」
(Class)
高等部3年の赤百合と青桜は仲があまりよろしくない。合同授業なんか毎度これだ。
私はキーコに憧れるとか、赤百合のライチくんに恋するとか、そういう部類に属してはいないので、あまり関係はないけれど。
「ライチ、昨日は図書館に来なかったな」
「昨日は森を探索していた」
「ふーん」
一人で端の方に席を陣取っていたライチくんの隣にキーコがいつも通り滑り込む。ライチくんが微妙に嫌そうな顔をするのもいつも通り。そして赤百合と青桜の女子の空気がピリピリするのもいつも通りだ。
「ライチ、彼女とは上手くやってんのかー?」
「キーコも彼氏と上手くやれよ!お前と付き合えるやつあんまいねーんだから!」
赤百合の男子と青桜の男子がそれぞれ囃し立てる。今日は珍しく絡みに行ったみたいだ。
「彼女……?誰のことだ?」
「ライチが彼氏とか勘弁してくれないか……」
不思議そうな顔で首を傾げるライチくんに、眉をひそめるキーコ。そもそもライチくんは彼女がキーコを示していることすら理解していないらしい。
はて、という顔をした後、ライチくんは教科書を黙々と読み始めた。囃し立てる声も右から左。興味がないみたい。
キーコは呆れた顔をしてライチくんの隣から移動した。
「もらいものを無駄には出来ない。しっかり覚えなければ……」
「ライチと付き合えると思うのか?」
(Lunch)
今日も見つけられた。ライチ先輩。
「タカ、ほら昨日の礼だ。助かった」
今日は使い魔の鷹もといタカさんと一緒にご飯らしい。朝食に出たお肉をどこからか出してライチ先輩が放り投げると、鷹が見事に捕まえる。
かっこいいなぁ。先輩は高等部の3年で、私は中等部の3年。たった一年被らない。こうして休み時間に偶然見かけられるだけで幸せ。
朝食と夕飯のときは同じ大広間にいるけど、寮違うし……。せめて私の魔力がもっと強かったら。赤百合寮に入りたかった。
「はは、美味くて良かったな、タカ」
う、わぁ。ライチ先輩、あんな風に笑うんだ。
廊下歩いてたりするときは、大体が真顔だったり何か考え込んでる感じだったりするから。
あんな笑顔見れるなんて、今日はラッキーデーかもしれない。
「ん?」
あ、鳩がライチ先輩の頭に。
「拗ねるな、タカ。おい、降りろ」
杖を取り出してライチ先輩が頭の鳩をつんつんすると、ヒョイとジャンプしてライチ先輩の腕にとまった。
「鳩だったのか。鷹がいるのによく来たな、お前。やめろやめろ、足を突くなタカ」
何だか鳥にモテるみたいだ、ライチ先輩は。
「すみません!その鳩っ、」
「ああ、君のか。ほら、オレの腕にいないで帰れ」
腰ぐらいまで髪のある女の子が走って来て、ライチ先輩が杖の先に乗っけた鳩を差し出すと大事そうに抱えて帰って行った。
彼女の使い魔だったみたいだ。
「タカ、それはオレのご飯だ。拗ねるな、馬鹿め」
タカさんとご飯を取り合うライチ先輩は、普段のちょっとミステリアスな感じは全然しなくて。
やっぱり今日はラッキーデーだ。
「タカ!おい、やめろ!」
(FreeTime)
何を考えてるかわからないライチは今日も通常運転。
何だ、あの薬草は……。
「おいライチ、何だそれ?」
「え?あぁ、薬草栽培が得意な後輩が分けてくれたんだ。普通に食べても甘みがあって美味しいと思うが、食べてみるか?」
「遠慮しとく……」
「そうか。じゃあ夕飯で」
多分まだ授業で取り扱ってない薬草。それを普通に差し出すか。
つーか栽培まで出来る後輩って何だそりゃ。こいつの交友関係が謎。
薬草学はどうやら得意らしいから他にも俺の知らない薬草とか知ってるんだろうけど。
「ライチ先輩、こんばんは」
「呪いのビデオなら見ないぞ、マキナ」
あ、スノー・グローリーのやつに捕まった。後輩か。
呪いのビデオって何だよ……。
「今からやらなきゃならないことがある」
「別に今日はポリスくんと約束したりしてません」
「そうか」
忙しいので失礼する、とつれないながらも律儀に挨拶する辺りに礼儀正しさがみえる。
しかし次の瞬間にはマキナと呼ばれた後輩など最初からいなかったかの様に歩き始め、薬草の葉を一枚口に含んだところからして、やっぱりアイツはわけがわからない。理解しがたいな、ライチは。
「うん、完璧な出来だ。なかなか美味い」
(Dinner)
もう夕食時間もそろそろ終わりで、大方の人が寮に帰り始めた頃にライチさんはやって来た。
「助かった」
少し汗をかいて、ほっとした顔をしてる。食べ損ねそうになって慌てて来たようだ。
他寮は勿論、ウチの寮でもあの人は謎だと言われてる。ある意味有名人。美形なんだけど行動が割と不可解で。使い魔が友達だとか、元は魔法が使えない世界にいたのに赤百合寮だとか、見たこともない薬草を持ち歩いるだとか、教科書にない闇の魔術を使っただとか……。色々ありすぎて最早どれが本当かはよくわからなくなっている。
ライチさんが夕食時間ギリギリに来るのは何も今日始まったことではなくて。一体何に夢中になれば育ち盛りの男がご飯を忘れられるのか。
「いただきます」
と、懐からマイハシ。ここではハシを使う人などいない。あれも学内にある森で作ったらしいと専らの噂。
「ライチ先輩、またこの時間ですか?」
「……何の用だ、ポリス。後輩まで連れて。食べるのに忙しいから後にしろ」
ダーク・ローズの後輩らしい二人に話しかけられると、眉を寄せた。
「仕方ないです。後にしますね、ライチ先輩。カヤノ、行こう」
「あの、お邪魔してすみませんでした」
黒薔薇の二人があっさり引き下がると、ライチさんは更に眉を寄せる。苦手なんだろうか。あの人にもそんな相手がいたのか。
「……逃げよう」
ハシの動きを止めたまま、固く決意したようだ。苦手なんだな、うん。多分あのポリスとか言われてた方が。
「は、それより食べなければ」
(???)
あーあ、またかよ。
寝落ちばっかだな、最近。本仕舞わないで起きたときに叫ぶのお前だろって。
また新しい草の研究とかし始めちゃって。これが興味本意でしかないんだから勿体ないよな。
この間、薬草学の先生の部屋の前通ったら「ライチくんがもっと欲を持ってくれますように」とか唱えてたぞー。
もう少し人の気持ち汲めるようになれって。
まぁどうせ自分本意で動いてるライチに言ったところで無駄なんだけど。
仕方ない。このボク自らが本を机に移動させておいてやろう。
なんて偉いんだろう!
多少荒技だけど、寝落ちしたライチが悪い。重いんだからな、この本。
よし決めた。
明日の朝食の肉も要求することにしよう。
おやすみ、ライチ。いい夢を。