図書館へ向かうために裏庭に出る。この近道は基本的には知られていない。誰にも会ったことのない特殊な道。魔法的な何かがかかってるのかもしれなかったが、道は道。気にしたことはなかった。
大体はポリスやおつきから逃げる際に使用するのだが、今日は気分的に日当の多いこの道を使いたい。
「朝ぶりだな、タカ。今日も満腹か?」
バサバサと羽音が近づいてきたので腕を上げてやれば、満足そうな顔をした鷹がゆっくりと着陸。
この鷹は、入学してすぐ森をフラフラしていたら仲良くなった友達だ。タカ、とそのままの呼び名で呼んでいる。別に名付けるのご面倒だったとかではない。二度目以降会ったときに「あのときの鷹」と呼んでいたら、タカでいつの間にか定着しただけだ。
「相変わらず優秀だな」
そう声をかけると、少しだけ頭を下げた気配がした。コイツは大分賢い。
近道を抜け、図書館へ続く一本道に入ると後ろから聞き慣れた声。
「ライチ」
「……キリコか」
振り向けば予想通りの顔。仕方がないので歩幅を合わせてやる。
「キーコと呼べと言ってるだろう」
「生憎オレはまだ同名のキリコさんとやらに会ってないから関係ないと言ってるだろう?」
「強情っ張りめ」
「誰がだ」
それきり会話もなく、定位置で各々寛ぎ始める。キリコの使い魔とタカはお休み体勢だ。
さて、今日は何を読もうか。うろうろしながら本棚を眺めていたら、薬草関連の書籍に混じって、一冊だけ仏教文学の本があるのを見つけた。大方誰かが適当にしまったのだろう。
閉館すると自動的に本は元の場所に戻る。ということは誰かが今日読んだのか。魔法の使えるこの世界では、魔法が使えない人種を知るための材料でしかない。元々魔法などと無縁の世界に生きてきたオレなんかからすると、その世界を懐かしむものに早変わりするわけだが。
これも何かの運命かと、その本を手に取ってソファに落ち着いた。
今度は古事記とか探そう。新しい闇の魔術とか薬草学はまた今度。
「キリコ先輩は人間界の呪いのビデオに興味ありませんか?」
面倒な後輩が来た。
またジャパニーズホラーなど持って来たのか。頭が痛くなる。どうもこのマキナという後輩は、ホラーが大好きらしい。多分。頻繁にそんな誘いをかけて来るということは好きなんだろう。
「ライチせんぱ「断る」
彼女の視線がオレに向いた瞬間には口が動いていた。
御免被る。
別にホラーや幽霊が苦手なわけではない。幽霊なんかたまに出くわすし、多少仲の良い奴もいるくらいだ。
けれど作り物はどうも苦手だ。計算された感情にガッツリ嵌まり込んでしまう。
ポリスくんとだけなんてもったいない、などとマキナは言う。もったいないわけがあるか。早く帰れ。
最大の理由として、オレはポリスという後輩が苦手だ。何が楽しいのかやたらとオレに絡んでくる。
「タカ、今度美味しい肉をパクって来る」
マキナが去ったあと、そう言って窓を開ける。タカは心得たとでも言うように頭を下げると、大きな羽を広げて図書館を飛び出した。
本当にタカは賢い。オレの愛すべき友人だ。
「使い魔に褒美をやるのか。変わっているな、相変わらず」
「タカは友人だ。使い魔ではない。お前に言ったところで、理解など出来んだろうが」
褒美だなんて上から目線でタカに接しているわけでもない。肉はこちらがタカに働いてもらうための対価だ。
こういう部分で、やっぱり違うと感じる。別にそれに引け目を感じたことはないが、ポッと出のオレを変人だと言うのはそういうことなんだろう。オレだって魔法なんて知らなかった頃、キリコみたいなのが現れたら完全に変人奇人としか思えない。
――バサッ
戻って来たタカが空中停止。小さく一声鳴いた。
なるほど、やっぱりオレの名前が出たか……。それならばグズグズしているわけには行かない。
「では、また」
「まぁ頑張って逃げ切れ」
「寮に入れれば追って来れないのが幸いだ」
マントを翻して足早に図書館を出る。横に並んだタカを腕にとめて、そのまま来た道を戻るように近道へと足を向けた。
近道を使わずとも図書館から一番近いのは赤百合寮だが、早いに越したことはないからな。
「明日は肉料理メインだといいな、タカ」
肉料理じゃなくても肉は持ってこい、とでも言いたげに頭突きをかまされた。