※何でかわからないけどマキナとライチが付き合ってる設定だよふっふー
「おいライチ」
「……何だ」
キリコと授業も被らず、その上普段何かと絡んでくる後輩にも見つからずに快適に過ごしていたというのに、オツキに呼び止められるとは。
前に頼んだ薬草は成長時期的にまだだろう。となるとオレにとって良いことがあるとは考えにくい。まったくもって嫌になる。
「ウチの寮の先輩が探してたぞ。あの、女にモテる女。よくお前と一緒にいる奴」
「キリコか?」
「確かそんな名前だ。何か怒ってたぞ」
「怒ってただと?ならば余計に見つかりたくはないな。面倒くさくなることは目に見えている」
「あぁ、そう。でも行った方がいんじゃね?マキナちゃんの誕生日にどこほっつき歩いてやがるんだあのクソ男はーって叫んでたからな。マキナってお前の彼女の名前だろ」
「……は?」
「恋人の誕生日くらい把握しとけよ、お前……」
初耳すぎる情報に固まる。
誕生日、だと?誕生日?そんなこと聞いた覚えはない。何故マキナも言わんのだ。いや、そんなことは関係ない。今朝から会わなかったに見合うプレゼントが必要だ。でなければキリコに丸焦げにされる。下手すれば灰と化すかもわからん。
「いいのか、恋人のところ走らなくて」
「今朝から会わなかった理由が必要だろう」
「はぁ。あー、そうだな、覚悟決めてましたーとか言えば?」
オツキの言葉の意味がわからなくて視線で問えば、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
パッと片手を掴まれてオツキに引き寄せられ、腰に手が回った。驚く間もなくオツキに抱き寄せられ、耳元にオツキの唇。
「――――」
囁かれた言葉はオレには到底思い浮かばないもので。そしてそれは、少し魅力的な響きを含んだ、現状を打破するには最適とも取れそうなものだった。
「馬鹿め。顔が近い」
「お前、無理矢理口角下げたその顔で言っても決まんねーぞ」
キーコ先輩を始めとして、今日は色々な人に祝われた。見知らぬ人にもおめでとうと声をかけられたのだから、キーコ先輩は相変わらず凄い人だと思ってしまう。ファンクラブも納得だ。
しかし、だ。仮にも恋人である男が祝いに来ないとはどういうことか。プレゼントを要求するわけではないが、せめて言葉くらいと思ってしまう。ライチ先輩からの言葉はお金では買えないというのに。
「やっぱり私が悪いか」
誕生日を教えた記憶はないし、学内でちょっとしたお祭りをやっていてもライチ先輩が興味を持つとは思えない。そういう男だ、あの人は。そういうところを含めて好きになった。
最後までライチ先輩に腹を立てていたキーコ先輩が自寮まで送ると言ってくれたが、それを断ってライチ先輩がよくタカといる裏庭に来てみたが勿論いるわけもなく。
「寒い……」
「当たり前だ、バカめ。この寒い時期にマントも着ないで外に出たら寒いに決まっている」
バシッという音がして振り向くと、しかめっ面をしたライチ先輩。姿現わしも完璧ですね……。
「マキナ」
心地良い低音で名前を囁かれ、ライチ先輩の手が頬に触れた。
同時に体中に広がる暖かさ。相変わらずの魔力の大きさに未だに慣れない。そして嫉妬してしまう。
「こんな時間に何をしてるんだ」
「聞きます?」
「すまない。オレが悪かった」
珍しく申し訳なさそうな表情をする先輩。こういうところは狡いと思う。普段あまり表情を変えてはくれないから。
「マキナ、誕生日おめでとう」
「……知ってたんですか」
「人づてにな」
キーコ先輩だろうか。あぁ、何だかモヤモヤする。彼女に嫉妬したところで、どうしようもないのに。こんな自分が嫌になる。どうしてこんなにも目の前の男に翻弄されるのか。
「プレゼントだが」
「え?」
「プレゼントだ。恋人に何もなしというわけにもいかないだろう」
もらえるものは有り難く貰うが、正直言えばこの人にプレゼントという発想はないだろうと少し思っていた。
「プレゼントは、その」
「はい」
これまた珍しく狼狽する先輩。果たして何だと言うのか。
コホンと空咳をすると、ライチ先輩は明後日の方向を見ながらポツリと零した。
「オレの、童貞……は、ダメか」
思わず吹き出しそうになったのを堪える。頬はほんのりピンクで、耳は真っ赤。どこの乙女だ。
しかも女の子が処女をあげるとかではなくて、男が童貞をあげるとは。新しい。新らしすぎる。童貞はステータスではないと隠す人が多い中、恋人に堂々の童貞宣言。
「あーその、前にオレが断ってしまったから、何というか、一応、覚悟はできた」
ダメだ、耐えられない。
「ふ、ふふっ」
「笑うな……」
多分、今日が誕生日だと知って必死に考えたのだろう。
それにしてもズレている。
「ライチ先輩がいいなら、いいですよ?」
ポリスくんがよくやるような悪戯っ子の笑みを浮かべて、あざとく上目遣い。これで怯むかもしれない。
ライチ先輩が欲しくないわけではないが、プレゼントの緊急解決策にされるのは少し釈だ。
「わかった。オレの部屋に行こう」
「……え?」
神妙な顔で頷く先輩を見て、選択肢を誤ったことに気づく。
そうだ、冗談が通じない真面目な堅物だった。
「レクチャーは受けた。なるべく頑張る」
両手を掴まれると同時にバシッと音がして。気づいたらライチ先輩のベッドの上。
いやいやいや。可笑しい。ちょっと待ってください。この展開はなんだ。それからレクチャーってなに!?
「マキナ、生まれて来てくれてありがとう。オレはわかりにくいかもしれないが、きちんとお前が好きだ。だから、これからもよろしく」
この男は本当に狡い。
そんな顔で、そんな声で、そんなことを言われたら負けるしかないじゃないか。
「オツキ、色々とありがとう」
「は?なんだよ気持ち悪い」
「お前のおかげで恋人の誕生日に死なずに済んだからな」
「…………え、お前あれマジでやったの?」
「? そうだが」
「おめでたい奴だな……」
「お前のレクチャーもなかなか役立った」
「あぁそうかよ」
「これはほんの礼だ」
「何だこれ」
「普通の世界のチョコレート菓子の詰め合わせだ。逃げないからオレはこれを定期的に取り寄せている」
「……嫌味のつもりか?」
「礼のつもりだが?」
「このクソ天然が爆発しろ」
「?」